地下倉庫

地下の倉庫です。

#006 / 卵

先日、UberEATSを頼んだ。
彼氏が、キーマカレーについてきた温泉卵に少しヒビを入れて、薄皮を残しながら剥き始めた。

何してるんだこいつと思いながら様子を見守っていると、なかなか上手く殻を剥くことができない彼が「難しいなあ」とぼやき始めたので、「それ、温泉卵だよ。温泉卵は、生卵みたいに『トントン、パカッ』ってするんだよ」と教えてあげた。

それで、20年前の4月1日のことを思い出した。



我が家では、朝ごはんに半熟ゆで卵が出ることが多かった。
日本では珍しいと思う人もいるかもしれないが、我が家の半熟ゆで卵はエッグスタンドで出てきた。
スプーンでコンコンと叩いて上部の殻を割り、くり抜くようにして中身を食べるのだ。

4月1日の朝。
幼少の私は、いつものように朝ごはんの半熟ゆで卵をスプーンでコンコンと叩いた。
いつもより上手く割れないので、少し力を入れてスプーンの端を卵にぶつけてみた。
スプーンはそのまま勢いよく卵にめり込み、生のままの白身と、衝撃で割れた黄身が、テーブルに飛び散った。
キッチンカウンターの向こうで、母が爆笑していた。

エイプリル・フールだよ~~」



それから十数年後の4月1日。
私はレストランの厨房で働いていた。
4月1日が来る度に、幼少期の生卵ドッキリの事を思い出す。
私がオムライスの卵を仕込む日だったというのもあって、その日も例に漏れず生卵ドッキリのことを思い出しながら仕事をしていた。

なんでお母さんはあんなことをしたんだろう…。

そう思いながらオムライス用の卵をボウルに割入れた。
割入れようと思った。が、割れなかった。
私の指は卵にめり込んでいた。
その卵は、ゆで卵だった。

「はい~!今日エイプリル・フールです~!」

隣で料理長が爆笑していた。



温泉卵、生卵、ゆで卵。
見た目は変わらないのに、中身はまるで違う。
それらは時として、人を惑わし誑かすために利用されるのだ。

皆さんには、正しく卵を取り扱うよう心がけていただきたいです。



おわり